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 戦場の不文律
 三崎の右手が金髪の鼻先をかする。正確には、三崎がかすらせた。鼻骨を折る努力は最小限に抑え、相手の恐怖を最大限に引き出す。相手が痛みに気付くまでの間に三崎は口を歪めて目を細めた。時間差で金髪が顔を歪める。今までに感じたことのない痛みなのだろう、曲がった鼻に手を触れた瞬間、金髪はその場に腰を落として声にならない悲鳴を上げた。
 三崎の視線はすでに次のターゲットをとらえていた。金髪の悲鳴は三崎の耳に届かない。
 怒鳴り声を上げながらリーゼントが突っ込んでくる。大振りで振り下ろされてくる右拳を左手で受け流し、最小の動線で抜手をみぞおちへ入れる。柔らかな筋肉の隙間に鈍い外圧がかかる。
一瞬の嗚咽のあと前かがみに崩れ落ちたリーゼントは、腹をおさえて地面に転がると、ぴくぴくと痙攣し始めていた。
 三崎はスーツについた埃を払うように、右手の甲を撫で、一呼吸おいてスーツの襟をつまんで正した。倉庫の屋根を見上げて、痛みで立ち上がれない彼ら。三崎は声を張り上げた。芝居がかった台詞が地面に沿ってうなされる青年らの耳に届く。
「おお、チンピラよ、死んでしまうとは情けない!」
 三崎は倉庫唯一の出入り口へと向かいながら、深呼吸するように両手を左右に広げ、歌い上げるように叫ぶ。開いている出入り口から、倉庫に面している道路の街灯が力弱く周辺を照らしている。
「今一度、チャンスを与える、魔王三崎を倒してくるのだ!」
 三崎は出入り口の扉の取っ手に手を掛けた。
 金髪が情けない顔をこちらに向けているのを三崎は背中で感じた。
 打撃で腫れあがった息子の頬や内出血で青黒く染まった背中や腹を思い返しながら、その重い扉を勢いよく閉じると、地響きのような轟音が倉庫内に走った。ゆっくりと、新たな静寂が倉庫内を浸食する。外部から切り取られた倉庫の空気に、彼らも少しは勘づいたか? と、三崎は話しだすタイミングを計る。本番はこれからだ。これからがお前らの……。
 三崎の後ろで地面を這う音が遠ざかっていく。リーゼントが理解したようだ。少し遅れて金髪の気配も急いで遠ざかっていく。彼もやっと、事態を把握できたようだ。
 ――バラモス役は、息子からおれが引き継いだ。
 三崎は高らかに謳った。
 「さあ、勇者たちよ! 死ぬまでバラモスに立ち向かうのだ!」
 満を持して倉庫内を振り返ると、金髪とリーゼントが、懇願するように、許しを請うように、こちらを見ていた。
 理由にならないよ、と、三崎は胸の前で両の拳を叩き合わせ、彼らに向かってゆっくりと歩き出した。


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